松井彰彦『SOUK-市場の中の女の子』

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 ファンタジー小説の形式で、著者の研究する文化の経済学の重要性が説かれている。経済学においてはまだまだ新古典派が主流で、文化の経済学は新興宗教のようなものであるという著者の嘆きが聞こえてくるようだ。キリスト教における異端排除運動と新古典派と文化の経済学の関係を重ねているように感じられる。

 新古典派経済学は経済主体が経済合理的な判断を下して行動することを前提に経済を分析する。しかし、文化の経済学は歴史や慣習、規範、宗教などさまざまな文化的要素に影響を受けながら経済主体が行動をすることを前提とする。

 文化の経済学が前提とするものは、言ってしまえば「当たり前」のことなのだ。しかし、経済学は今までそれをしてこなかった。全体が理解できないときは部分に切り分けて研究し、その合計を全体としてとらえるデカルト的手法をベースに発展してきた現代科学において、経済学はその研究対象から文化を捨象してきた。ただし、やはりその方法で発展していた経済学には価値があったと私は考える。そして著者は文化の経済学が現在までの経済学の成果を取り入れなければならないとも説いている。これはどちらが重要で真理に近いかという論争ではなく、また経済学の段階的発展論でもなく、経済学の質的変化に対する注意喚起の議論である。

 他の書評をみるかぎり世の評価はお金の価値や意義などを考えさせるなどの理由で中学生から読ませるべき良書ということらしいが、本書は決して経済学の入門書ということではなく、経済学の初歩と歴史くらいは知っていなければ、十分に読みこなせないのではないだろうか。かくいう私も経営学者であって経済学はずぶの素人のため読みこなせている自信もない。ただ、読者のレベルにあわせて得るものはあるかもしれない。

 本書は文化の経済学への感心を喚起するための本であるため、このような指摘は的はずれだが、学問的にどのように歴史や慣習や規範、宗教といった要素を分析するのかは全く明らかにされていない。どのような手法を用いて研究が進められるのかに関してはこれからの研究に期待したい。ドラッカー信者の経営学者としては、このような問題は「知覚」することが必要になると思う。

 最後にファンタジー小説としての感想を述べさせて頂ければ、引き合いに出される歴史上の出来事そのものやその解釈が私の趣味とはかけ離れているため、あまり楽しいとは感じなかった。また、最初に書いたとおり著者の陳情書のようで、気持ちよくは読めなかった。ただ、参考文献の書き方はすごく気に入った(研究書でまねしたい)し、章ごとの最初の引用はとてもいい言葉が多いです。文体は軽妙で読みやすく、最後まで読ませてはくれるので、興味のある方はどうぞ。

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コメント(2)

kei :

紹介しておいて読んでおいて、自分は未読だった
ので今読んでいるところです。
これからは読んでから紹介するようにします(反省)
うーん、はっきりいって難しいですね。
いまだ進まないです。
スドウピウの絵がなかったら、この装丁じゃなかったら
手にする人は減るんじゃないのかなぁ。
読了したらまた感想書きますね。

bin :

気にしないでくださいね。
他領域とはいえ学者的な学問の発展の見地から
僕は読んでしまったのですが、
人それぞれの視点があっていいとおもいます。
それにしても東大の名誉教授がこんな文章を書くのには驚きです。
ただ、『細雪』は読んだことないし、今の中高生はほとんど
知らないのではないかとおもいます。
その辺に著者の年齢が感じられて、全体的なファンタジー調と
違和感を醸し出してます。

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このページは、binが2005年11月 6日 01:26に書いたブログ記事です。

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